人的資本とジョブ型雇用

今リスキリングとほぼ同じ意味合いで人的資本(human capital)という言葉が流行り始めた(21年のコーポレートガバナンスコードの改定で盛り込まれた)。
何か新鮮な響きがあるけど、欧米では100年くらい前から教育を受けて時代の要請に応えられる社員というニュアンスで使われてきたようだ。
一般的に使われる人材(human resources)に近いが、企業にとって役に立つ知識や経験、人材が持つ企業の発展・成長に貢献できる無形資産、という意味合いが強い。
従来、労働・資本・土地を生産の3要素としてきたが、AIの進歩によってヒトの持つ労働力部分はどんどん機会資本に代替されるため、ヒトの持つ資本的性格つまり人的資本が重要になっていくということだろう。

一方、ジョブ型雇用も今の流行り。
大学出たての新入社員を会社のなかで色々経験させながら会社に役立つ人材にしていく雇用をメンバーシップ型とよび、昭和の戦後復興期にこの雇用形態が確立した。
この主流の雇用形態を変えなくちゃ日本企業は世界に取り残されてしまう、という危機感が高まるなか、ジョブ型が注目されてきた。
ジョブ型は、既に獲得した専門性(人的資本)を生かせる職務で働いてもらおうとするもので、中途採用と相性がよいため人材流動性を高めることにつながる。
確かに経営環境が激変し社内のon the job trainingでは間に合わない現状、企業が他社から自社にない人材を採用できることにつながる「ジョブ型雇用&人材流動性拡大」が、日本の競争力強化に欠かせないようにみえる。

これまで論じてきた視点はすべて企業の側に立ったものだけれど、社員=個人が終身雇用で一つの会社に縛られる「就社」から解放されるという視点で見ると、転職しやすくなる イコール 一つの会社にその人の人的資本を閉じ込めずに他社でも有効に人的資本を発揮することで個人の社会貢献度が高まる点でも、私はジョブ型を評価したい。
これまでのメンバーシップ型に染まった立場でみると、メンバーシップ型がジョブ型にシフトしていくと、企業にとっては折角社内で教育しても辞めてしまうという懸念が、個人にとっては年功で給与が増え終身働けるという安定感が脅かされるという懸念があろう。
しかしジョブ型は、個人が企業依存から脱却し自分の生き方/働き方は自分で決める、企業と個人が対等に向き合って働く条件を決めていくという方向に沿っており、これからの日本が色々な課題を抱えつつも国民の幸福感を高めていくうえで避けられない道と考える。
(最近、企業の社員に対するリスキリング注力がよく報じられている。歓迎すべきことではあるが、リスキリングを個人が自分の生き方を選択するための手段と捉え個人が主体的にリスキリングに取り組むことこそがより重要ではなかろうか。)